About the project プロジェクトについて
Cliff Edge Project(クリフエッジ プロジェクト)は、2013年に静岡県伊豆地方のクリエイターらによって結成されたアートプロジェクトです。これまでに伊豆半島の特色ある地質遺産と、災害史のアップデートをテーマとして展覧会を開催してきました。テーマにゆかりのある場所を会場に選び、その土地の記憶や歴史を再確認し、未来の対話へとつなげることを目標としています。火山でできた半島である伊豆半島の巨大なエネルギーは、火山噴火や火砕流、地震、豪雨による土石流、洪水などを引き起こしてきました。これら大地におきる現象に目を向け、アート作品を通じて、われわれが伊豆半島の自然環境と関係を結ぶ時、より大きな視野で、暮らしや歴史を認識できるのではないか。このアートプロジェクトの意義はここにあります。
プロジェクトのタイトルである「クリフエッジ」は、断崖の先端の意味ですが、2011年から行われた日本の原子力発電所のストレステストの安全評価に使われる「ある状況が大きく変わる限界」を指す言葉です。例えば津波では、想定する波の高さを徐々に上げていった時に、ある高さ以上になると安全上重要な施設・機器等の機能喪失が生じ、燃料の重大な損傷に至ってしまいます。この津波の高さをクリフエッジと言うのです。
私たちがプロジェクトを始めた頃、新聞に掲載された工事中の浜岡原子力発電所の防波壁の写真が目に飛び込んできました。この防波壁は、高さ最大22 m、全長1.6 kmにも及ぶもので、近い将来起きると言われている南海トラフ巨大地震による津波に対する備えであり、原子力発電所の継続的な稼働を約束するためのものです。しかしこの防波壁をヘリから俯瞰して撮影した写真を見ると、ただの薄っぺらな帯状の板が海岸線を走るだけで、自然の脅威に対処するにはあまりにも頼りなく感じました。いつかこの壁を乗り越える大きな津波が到来するかもしれません。
2011年3月11日に発生した東日本大震災では、人々の暮らしを奪った津波の被害について「過去の教訓を活かせなかった」という言葉をたびたび聞きました。三陸地方には、昭和初期に起きた三陸地震の津波の被害から得た教訓を刻んだ碑が残っていましたが、人々はいつしかそれらの教訓や自然の恐ろしさを忘れ、科学技術の力を信じて暮らしてきました。しかし、東日本大震災の地震の猛威は人々の暮らしを破壊し、絶対に安全と言われていた福島第一原子力発電所はその機能を喪失しました。人間は自然の前ではあまりに無力だったのです。
これらの災害の記憶を織り込みながらクリフエッジプロジェクトのテーマは決まっていきました。そして発表したのが、伊豆半島北部・丹那盆地の特異な地形と歴史を扱った「丹那の記憶」展と「半島の傷跡」展です。伊豆半島の巨大なエネルギーが引き起こした震災と、それによって変化した北伊豆の地形、被災した人々の暮らし、同じ時期に盆地直下で行われていた国家事業である丹那トンネルの工事など、時とともに埋もれていくこの土地の震災史をアートによるアプローチによってアップデートすることを試みました。
その後、地質遺産の再発見と災害史のアップデートというプロジェクトのテーマが明確になり、伊豆半島ジオパークのランドマークとも言える伊豆高原 大室山に伝わる伝説を題材にしたインスタレーションの発表。 被害の大きさゆえに60年以上経った今でも伊豆地方で語り継がれている狩野川台風を扱った展覧会「水のかたりべ」展の開催へとつながっていきます。
この展覧会をきっかけに狩野川台風の体験者が運営メンバーに加わるなど団体としての新しい体制が整う一方、より深みのある活動を模索する中で、 狩野川台風の被災者体験者の多くと心の深いところで接点を結ぶことの難しさを感じました。
そこで、今現在人々の記憶にまだ残る災害ではなく、遠い過去の災害の記録から作品を制作する試みをもって、 災害についての新しい表現ができないかと考えました。 伊豆半島中央 天城山系の中腹で3200年前におきた火山噴火を扱った 「躍動する山河」 展では、縄文時代の人々が目にしたであろう火山噴火という災害をテーマに、4組のアーティストたちが作品を発表しました。
そして、2022年~2023年の2年にわたるプロジェクトとして取り組まれたのが今回の「うぶすなの水文学」展です。本展は、これまでの展覧会と比べ、災害をテーマとするカラーは薄まり、伊豆半島の地質・地形に着目し、水の循環を科学する 「水文学」と地域の信仰をテーマにした展覧会となりました。 プロジェクトとしては、新たなフェーズに入ったといえます。
【参考にしたホームページ】ほくでんホームページ プレスリリース2011 年度
泊発電所1号機の安全性に関する総合評価(一次評価)に係る報告書の提出について
http://www.hepco.co.jp/info/2011/1188085_1445.html
History 沿革
2013年11月 | Cliff Edge Project設立 |
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2014年10月 | 「丹那の記憶」開催 会場:KURUBUSHI-BASE/函南町 |
2015年3月 | 伊豆半島ジオパーク県民学術国際シンポジウムにてポスターセッションに参加 会場:プラザヴェルデ/沼津市 |
2015年9月 | 伊豆経済大学にてポスター発表 会場:みしま大社の杜/三島市 |
2015年10月 | 「半島の傷跡」開催 会場:KURUBUSHI-BASE、渓月山 長光寺/函南町 助成:朝日新聞文化財団、野村財団、福武財団 |
2016年7月 | AIR21 KANAZAWA FRINGEトークイベント 「滞在制作をめぐる対話-私たちはどこに「滞在」しているのか」登壇 会場:金沢21世紀美術館 シアター21/金沢市 |
2016年10月 | 福武財団2016年度助成成果発表大会成果報告会にて成果発表 会場:サンポートホール高松/高松市 |
2017年5月 | 「Punk Picasso10」出展 会場:伊豆高原BAUHAUS/伊東市 |
2017年7月 | 伊豆半島ジオパークのユネスコ世界ジオパーク加盟審査にてプレゼンテーション 会場:酪農王国オラッチェ/函南町 |
2017年11月 | 『Cliff Edge Project 2014-2015ドキュメントブック』刊行 |
2018年3月 | しずおかHEART防災プロジェクト キック・オフイベント まちめぐり&座談会 「“未”被災地のための防災アートは可能か?」登壇 会場:三島市民文化会館/三島市 |
2018年11月 | 「水のかたりべ」開催 会場:国土交通省 中部整備局 沼津河川国道事務所 狩野川資料館/伊豆の国市 |
2018年11月 | しずおかHEART防災 特別展「しずおか防災アート展」出展 会場:静岡市清水文化会館マリナートギャラリー/静岡市 |
2020年6月 | 静岡大学人文社会科学部「アートマネジメント特講」ゲストスピーカー 会場:静岡大学静岡キャンパス/静岡市 |
2021年2月 | 「躍動する山河」開催 会場:伊豆市資料館、上白岩遺跡、大宮神社/伊豆市 支援:静岡県文化プログラム推進委員会 助成:公益財団法人 花王芸術・科学財団、公益財団法人 野村財団、公益財団法人 福武財団 |
2021年8月 | 『Cliff Edge Project躍動する山河』刊行 |
2022年5月 | Cliff Edge Projectうぶすなの水文学リサーチプログラムスタート ⽀援:アーツカウンシルしずおか |