Statement

Statement うぶすなの水文学とは

伊豆半島中部にそびえる天城山系は、全国でも屈指の年間降雨量を誇る山地です。 昭和33年に伊豆半島を襲った狩野川台風で降り続けた大雨は、天城山中腹の火山、 カワゴ平の噴火の堆積物でできたもろい地形を崩し、麓の筏場地区にある蛇喰山の崩壊を招くなどの災害をもたらしました。 天城山の降雨は、多くの恵みをもたらす反面このような災いももたらしてきました。
天城山の麓にある貴僧坊水神社には、水の神ミヅハノメが祀られ、周辺地域には、川や道の重要な箇所に塞の神などの道祖神の姿が見られます。 これらの神々は、土地を守る産土神(うぶすながみ) として祀られており、古くから人々の信仰を集めてきました。そんな中で恵みも災いももたらす水の力はうぶすなの力と結びつけられてきたのかもしれません。
伊豆半島では、海や地表から湧き上がった雲が、 天城山で雨雲となり、 強烈な雨を降らせ、その雨は地表を流れるもの、地中を流れるもの、さまざまな経路でやがて川へと注ぎ、川は、伊豆半島を北上する狩野川へとつながり、 蛇行しながら駿河湾へと注ぎます。 そしてその水分はまた雲となって天城山へと上っていくというサイクルが繰り返されています。
このような水の発生、移動、分布を含む多様な水のありようを扱い、科学的に分析する学問として水文学(すいもんがく)があります。水の持つさまざまな様相は、人々に恵みだけではなく災いももたらします。そのような水の力をうぶすなの力として信仰することは、この地で生きる人々にとって必要なことだったのでしょう。水のふるまいは、すなわちうぶすなのふるまいであるとも言えるのです。この展覧会では、参加アーティスト13名が、水に関わる自らの体験や本展に先立って行われた現地調査をもとに、この土地と水をテーマにした造形作品やダンス、雅楽演奏の作品を制作しました。この展覧会を通じて、水の水文学的ふるまいと、そこに見え隠れするうぶすなの力を感じていただけたら幸いです。